触れてないのに、感じてた夜
夜の静けさが、ふいに深く刺さることがある。
スマホの向こうで、誰かが笑ってた。
その声に、すこしだけ救われた気がした。
画面越しだからこそ、言えることがある。
顔も名前も知らないのに、不思議と心がほどけていく。
「今日は、どこを触ってるの?」
彼女の声が、すこし甘くなる。
わたしの指先が、下腹部をなぞる。
音だけが響く部屋のなかで、
見られてないのに、見られてる気がして、
その感覚が、どうしようもなく気持ちよかった。
女の声って、柔らかくて優しくて、
でも時々、男の声よりずっと深く響く。
あのときの彼女の吐息が、今も耳に残ってる。
どこかで会ったことがある気がするけど、
それが夢だったのか現実だったのか、もう思い出せない。
たぶん、孤独じゃなかったから感じられた。
触れてないのに、感じられた夜。
誰かと繋がっていたくて、
ほんの少し、心も身体も、ゆるめてみた。
あれは、欲望じゃなくて
ちいさな「ありがとう」だった気がする。





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